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2011-10-22

ソース(記事原文):ポストクレセント

認知症の手引き

ポストクレセント(2011年10月22日)

認知症とアルツハイマー病との違いは?

「認知症は本で、アルツハイマー病はその本中で一番ページ数の多い章だ」と、メナーシャ(Menasha)のシーダケア行動医学(ThedaCare Behavioral Health)の精神科ナース・プラクティショナーであるペッグ・マキュアン(Peg McEwen)は言う。

認知症は脳内の変化に起因する、記憶障害を広く表す用語である。しかし、認知症は特定の疾患をさす語ではない。それどころか、認知症とは、日常に支障を来すほどひどく知的、社会的能力に影響する症状の一群のことである。

アルツハイマー協会(Alzheimer's Association)によると、アルツハイマー病は進行性認知症の最大の原因で、認知症のおよそ60パーセントから80パーセントを占めており、3千5百万人を超える患者がいる。

認知症は臨床症状だ、とシーダケア行動医学の臨床神経心理学者テレサ・チネリー(Theresa Chinnery)博士は言う。「そしてアルツハイマー病は特定の病理、つまり一種の進行中の神経損傷だ」

共通して言えるのは「どのタイプも進行性」であることだ。

認知症の原因

我々の脳は互いに通信している細胞約1千億からなるネットワークで構成されている。認知症の進行でその通信が妨害され、回線の先にある隣の神経細胞を損傷させる。

「人間は酸化する」とチネリー博士。「抗酸化剤を摂取するよう言われることがあるが、何故必要なのか?それは、人間の神経細胞が老化し、酸化的ストレスと呼ばれるもの、つまり一種のさびを生成するからだ」

アルツハイマー病では、細胞の外で異常なクラスターを形成しプラークとして知られるベータアミロイドタンパク質を通じ、細胞が損傷する。死んだ、そし死につつある神経細胞はもつれ、つまりタウと呼ばれる別の蛋白質のねじれたらせん構造も含んでおり、神経細胞の内部に蓄積しその電気的伝達システムの適切な作用を妨げる。

科学者らはアルツハイマー患者の細胞の死滅と組織の喪失の原因をはっきりとはわかっていないが、プラークともつれが主要因だと疑っている。

いつ検査をすべきか

短期の記憶障害などの問題があることに気付いたとき患者は検査に来る、と初期評価を担当するマキュアンは言う。家族に勧められて来る患者が大半だ。

「車を停めた場所を忘れたり、時折単語を思い出せなかったりというのは正常の範囲だ。しかし、日常的に支障が出始めたら、その時はもっと深刻な問題になっている」とチネリー博士は言う。

医師は認知症や軽度認識障害に診断を下すのに、臨床神経心理学を用いる。脳と中枢神経系との、そして認識機能と行動機能との臨床的な関連に焦点を置く応用科学である

「我々は患者に認知症や軽度認識障害が発症していることを正確に識別でき、同じく重要なことだが、発症していないことも識別できる」とチネリー博士。

記憶障害は全て認知症に関連するのだろうか?

答えはノーである。患者が記憶に関する障害を発症する理由はたくさんある。認知症はその1つでしかなく、認知症にも多くの異なる種類がある。加えて、前認知症という認知症と実際に診断される前の状態がある。

「人間には正常な老化が起こり、そうすれば軽度認識障害を発症する。多くの場合、それは、正常の老化と認知症の可能性との間の一種の移行状態なのだ」とチネリー博士。

認知症を発症するのは、軽度認識障害と診断された患者のうち47パーセント未満だ、とチネリー博士。しかし「軽度認識障害には(治療を通じて)対処できるので、多くの患者が同じ状態のままであったり、回復したりする」

認識機能の測定(神経心理検査)に神経学的診察、病歴と行動の包括的レビューを加えた結果には特有のパターンがあり、これを用いてアルツハイマー病タイプの認知症の診断が正確にできる、とチネリー博士。

テストの精度

チネリー博士によると、アルツハイマー病は感度97パーセント、特異度100%で診断できる。

「アルツハイマー病は認知症の主要なタイプだが、患者がアルツハイマー病だけを発症することはめったにない。レビー小体、前頭側頭型認知症、血管性認知症などの他のタイプの認知症のいずれか1つと併せて発症していることが多い」とマキュアン。

どれも症状は似ているが、MRI(磁気共鳴画像法)、分光写真、PET(放射断層撮影法)スキャンで、脳の影響を受けている部位がそれぞれの認知症によって異なっていることがわかる。

アルツハイマー病協会の推定によると、認知症の医学的基準を満たしている患者の半数が認知症の診断を受けていない。

遺伝が影響しているか?

遺伝子はアルツハイマー病のような認知症の発症に重要な役割を果たすが、アルツハイマー病には早期発症性と遅発性の2つのタイプがある。国立老化研究所(NIA)によると、双方のタイプにも遺伝的要素が見られる。

早期発症性アルツハイマー病は非常にまれで、30歳から60歳の患者に起こる。原因がわからない症例もあるが、大半は遺伝性である。

アルツハイマー病の症例の大半は、遅発性タイプで、60歳以降に発症する。このタイプも原因は完全にはわかっていないが、恐らく遺伝、環境、生活様式の要因を併せたものであろう。

アルツハイマー病の患者の残りの3分の1は遺伝子マーカーがない。「だから、そこには環境などの他の要因があるに違いない」とチネリー博士。「また、頭部に重傷を負った患者がこのような認知症を発症する傾向があることがわかっている。過去に繰り返し脳震盪を起こしたフットボール選手にそのような傾向が見られる」

健康なら避けられるだろうか?

イエスでもあり、ノーでもある。よく運動し、適切な食生活を送り、健康に十分気を付けている人は認知障害を発症しにくい。しかし、上記のことをすべて実践するが遺伝的素因で認知症を発症する人もいる。

しかし、心臓に良いことはどれも脳にも良い、とチネリー博士。

それでも、脳が機能を停止すると、身体も停止してしまう。

薬で認知症を治療したり、進行を止めたりできるのだろうか?

答えはノーだ。しかし、アルツハイマー病協会によると、記憶障害や混乱などの症状を一定期間軽減する助けにはなる。

薬は2種類あり、1種類はコリンエステラーゼ阻害薬で軽度から中度の認知症の症例に用い、記憶と学習に重要な脳内化学物質であるアセチルコリンの量を増やす、ドネペジル(アリセプト)、ガランタミン(ラザダイン)、リバスチグミン(エクセロン)などがある。

「これらの薬の設計は、認知機能低下の防止が目的だ」とチネリー博士。「長年かけてわかってきたのだが、素晴らしいいことに、治療薬の多くに不安神経症や鬱病を改善する特性がある。これは非常に有益だ」

2番目の薬はメマンチン(ナメンダ)で、グルタミン酸経路調整剤と呼ばれる新種の薬である。グルタミン酸は脳内の化学物質で、これも学習と記憶に重要である。メマンチンは多くの場合コリンエステラーゼ阻害薬と併せて処方され、コリンエステラーゼ阻害薬のみを服用した場合より、認知症の症状の進行を遅らせる効果が高い。

FDAはコリンエステラーゼ阻害薬がメマンチンと併用される場合、患者にはより強い反応があるとしている。

「ほとんどの場合、薬で日常生活を送れる状態を数年伸ばすことができる」とチネリー博士は付け加えた。「しかし、薬を服用しないとどれだけ急速に認知機能が低下するのかを知る方法はない。大半の人はアルツハイマー病の後期において、それより前の段階より長く年月を過ごすが、その時間の多くは介護施設で過ごしている。そのような患者を介護施設ではなく、在宅介護にすればするほど、認知機能にとってはよい環境となる」

認知機能低下がどれだけ早く生じるか?

アルツハイマー病だと診断されると、認知機能低下はかなり予見可能だが、損傷がないレベルから非常に重篤なレベルまである。全般的認知機能低下評価尺度が医師の薬の処方を助け、介護をする家族に愛する人が直面するだろう状態の概略を伝えることができる。その尺度の描写は、かなり写実的なものだ。

「最終段階(レベル7)に入ったら、かなり予見できる。おそらく(余命は)1年だ」とマキュアン。

しかし、段階という考え方で問題となるのは、段階を全くの線形と考える傾向があることだ。「だから問題となっているのだ」とマキュアンは言う。「患者は何もわからず怖がるかりだ。しかし患者は認知症が進行性であることを知り、計画を立て、自分が持ちうる最良の質の生活をする必要がある」

チネリー博士も段階という言葉を使うことを好まない。検査後、チネリー博士は患者のパターンと能力と衰えてきている部位を患者に伝える。

「その際、私は家族と膝を交えて話し、直面しなくてはならないかもしれない現実の問題などを伝える。そして、切り抜けていくために家族ができることをいくつか伝える。だから、ただ単に『認知症と診断されました。それでは失礼。頑張って下さい』ではないのだ」

アルツハイマー病は治療できるのだろうか?

症状を呈する前に医師が認知症の可能性がある患者を治療し、認知症の進行を食い止めることができるようになるのは時間の問題だ、とウィスコンシン大学医学部の長寿医療部長(head of the University of Wisconsin Department of Medicine's Division of Geriatrics and Gerontology)であるサンジェイ・アスサナ(Sanjay Asthana)博士は言う。

例えば、9月に発表された調査で、アスサナ博士のチームは、天然エストロゲンのパッチを3ヵ月間皮膚に貼ったアルツハイマー病の更年期後の女性が、パッチを貼らなかった女性より認知症テストで成績がよかったことを報告した。天然エストロゲンは女性の更年期後の症状緩和に用いられている。

この調査は以前の2つのテストの結果を再現し、代替療法と呼ぶことができるであろう療法に洞察を与えている。

アスサナ博士は、アルツハイマー病患者の年配の男性とアルツハイマー病患者でない年配の男性のテストステロンを調査していた研究者と協同し、双方の群の男性の記憶が改善したことを見出している。

「(医学の飛躍的進歩を待つ)時間がどんどん短くなっていると思う」とアスサナ博士。「今や10年を単位として話してはいない。大半の人が数年以内に非常に効果の高い薬が登場し、ある日、治療法が見つかること願っていると思う。というのも、認知症について理解が深まるにつれ、「治療」という言葉が認知症に対して口にされるようになっているからだ」


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